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人を育てる企業、使い捨てる企業

2012年05月09日

沖縄の大手チェーン・スーパー『サンエー』という企業がある。
県民ならお馴染みのこの系列企業に勤める友人がいるのだが、
彼曰く、『サンエーは人を育てる企業』だそうだ。

創業者の折田喜作は当初『折田商店』という屋号で商売をしていた。
将来はお客様に喜ばれるお店をチェーン展開したいという夢を持っていた。
そしてその会社は個人のものではなく、開かれた企業にすることを目標に、
当時としては斬新な試みの『社名から自分の名前を外す』ことを考えたそうだ。
http://www.san-a.co.jp/challenge/yougo.asp

この考え方はパナソニックの創業者松下幸之助にも通じるのではないだろうか。
一代で世界的企業を築いた松下幸之助氏は、決してエリートでも高学歴でもなかった。
一介の商店の丁稚からのたたき上げである。

松下幸之助氏の企業コンセプトは
 『産業人たるの本分に徹し、社会生活の改善と向上を図り、
 世界文化の進展に寄与すること。』
という企業綱領である。

サンエーもパナソニックもただ金儲けだけの企業でなく、
お客様、そして社会に貢献する企業精神を持っていることだ。
そして会社でも人材を育成することに力を注いでいる。

松下幸之助氏は欧米での肩書を紹介されるときは、
単に企業経営者というだけでなく、哲学者とも紹介されていたという。
サンエーの折田喜作氏も、業界だけでなく周囲からも尊敬を集めていたという。

成功した実業家というだけでなく、人間的にも尊敬される人物である。
いくら金持ちになっても単なる成金経営者、成り上がり者では、
世間の尊敬は集まらない。人格がすべてである。


日本ではパチンコや消費者金融の社長が長者番付にいるが、
この中で何人が世間から尊敬を集めているのだろうか?
私は知らないけどね・・・

欧米ではキリスト教精神から、金持ちが社会に寄付することはよく聞くが、
企業の経営コンセプトとして、儲けるだけでなく、人材を育て、
社会貢献をも、経営の一貫に考えている会社があるのだろうか?
まあ特亜系には皆無だろうと思うけどね・・・



ところで、大企業である衣料品メーカーユニクロに関する記事を見つけた。

ユニクロも消費者に安くて品質の良い衣料品を提供する
というコンセプトは企業人の基本であり、それを実現し成長してきた。
経営理念にも『お客様第一』とあり、それはそれで立派な会社だと思う。
http://kigyorinen.blog.fc2.com/blog-entry-2.html

ユニクロは商品のリサイクルで海外の難民支援に貢献し、
障害者の雇用は日本の企業ではトップクラスに高く、
植樹運動にも積極的に参加し、自然環境保全にも貢献している。

ところが、そんな立派な企業なはずなのにも関わらず、
ユニクロは新入社員の約半数は3年続かずやめていくそうだ。
5年目には約8割はいなくなるという。
http://www.mynewsjapan.com/reports/1607

↑に貼った記事によれば、ユニクロは徹底したマニュアル化の現場主義であり、
それが非常に細分化しているという。しかも互いの監視体制みたいなものがあり、
共産主義社会のような息の詰まる職場環境らしい。
だとすれば従業員は長続きしないだろう・・・


『ユニクロ帝国の光と影』 横田増生著 文藝春秋社によると・・・

『本書が詳細に取材して描くファーストリテイリングの柳井正社長は、徹底的な独裁者である。意思決定は社長がトップダウンで行ない、業績の上がらない部門長は部下の面前で罵倒される。柳井氏が後継者に指名した玉塚元一社長さえ、言うことを聞かないと更迭する。その結果、執行役員のほとんどが精神的にボロボロになって辞めていく。

労働条件も苛酷だ。賃金は業績主義なので、店長でも売り上げの悪い店では年収250万円。それで1日10時間以上、休日出勤して月間300時間も働くと、時給はマクドナルドのアルバイトより悪い。長時間労働で体をこわして辞める店員も多く、5年ともたないという。』



なるほど、嘘ではないようだ。
このような厳しい経営システムによって、消費者に安くて良い商品が実現できる。
消費者側としては有り難いことであるが、企業経営の在り方としてどうなのか?

大勢の面前で罵倒され、精神的にボロボロにされ、サービス残業当たり前、
これでは人を使い捨てにしているのと同じではないだろうか?
業績主義という経営方針は人材を育てないということになる。

ということは、従業員が長続きしない経営システムというのは、
愛社精神も育成できないし、後継者も育たないのではないか。
するとユニクロの成長は一時的に過ぎないのではないか、と思う。



一方厳しい労働条件下で辞める社員も多いが、
確実に企業として成長している所もある。

個人的な経験談だが、私は20歳くらいのころ王将食品にアルバイトしていた。
今では全国展開する『餃子の王将』で有名な中華レストランチェーンである。
私はその1号店である京都の四条大宮店でアルバイトしていた。

ちょうど染色の仕事を辞め、大学進学の準備をしていた頃だった。
親からも独立していたので、自活しなくてはならなかったのだ。
なぜ王将のアルバイトに応募したかというと、時給がすごく高かったからだ。

給料は当時時給が400円の頃に600だったし、
正社員は大卒初任給が9万円の頃に、学歴関係なく15万だった。
私は受験勉強もしなければならなかったので、週5日労働で平日5時間、
土日は12時間働いて、当時は一カ月充分に生活が維持できた。

しかしその分、仕事は一人で二人分くらい働かせられる厳しいところであった。
賃金に関しては文句なく良かったが、仕事のきつさに辞めていく人も多くいた。
正社員は実働12時間以上が普通で、残業代は2~3時間分とか聞いた。

初めのころは仕事に追われて怒られることもあったが、
必ずフォローがあり、厳しいながらも人間味のある職場だった。
また店長やチーフも心配りのできる人が多かった。

王将の求人広告も『王将で働いてお金を貯め、技術を身につけ独立してください』
というもので、会社が生涯社員であることを必ずしも求めておらず、
逆に社員に独立の夢を与えるものでもあった。

むろん定年まで社員を希望する社員にはそれに応じた報酬もあり、
店長クラスになれば、当時月給50万円以上にもなったそうだから、
そのまま続けるのも悪くはなかった。

王将は厳しい労働環境だったが、従業員はそれに見合う賃金や技術
さらには独立したい者にはも与えていたのである。
つまり厳しくとも得るものもあったのだ。



近年日本型の終身雇用制、家族型的経営方式から、
欧米型の成果主義や、短期雇用の契約社員型に変わりつつある。
もちろん、それぞれに一長一短あると思う。

しかし戦後の日本の産業が成長してきた一つの理由には、
社員は家族という日本型経営システムがあるのも事実だろう。
社長は親爺であり、社員は子供であり、会社は運命共同体でもある。

少々仕事が遅い社員も辞めさせるのではなく、時間をかけて育てていく。
社員も会社が経営不振でも辞めずに、自分の『家』の会社の為に頑張る。
経営者も従業員も互いに助け合って会社を経営していくのだ。
こういう経営方法は日本の文化ともいえるのではないだろうか?

また日本には創業100年以上も続く企業10万もあるという。
今は不況の影響により、かなり倒産しているかも知れないが、
それでも100年以上も存続する企業は、すごいと思う。

しかもそのうち4万5千社は製造業だからさすが職人国家だ!
http://ryotaroneko.ti-da.net/e2182475.html

その理由はいろいろあれど、日本の企業風土・経営の伝統が儲けるだけではなく、
社会に貢献し、労使が助け合い、人材を育てる風土があるから、
とは言えないだろうか。

だとすれば、これはまさに、
日本の誇るべき文化の一つと言えるじゃないか!

近年日本らしさが徐々に失われつつある世の中だが、
政治や経済においても、今一度失った日本の良さを、
再認識してみても良い頃ではないだろうか?



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Posted by トラネコ at 00:00│Comments(12)文化
この記事へのコメント
近江商人の三方よしの、売り手よし買い手よし世間よし。

青砥の殿さまが、川で落とした一文銭を、家来の報酬を出して探させる話。
(http://www.chinjuh.mydns.jp/ohanasi/365j/0201.htm)

昔から理解していたと思います日本は。

ところが、いわゆる新自由主義という価値観を植え付けられ(恐らく日本の弱体化のため)、在日朝鮮人やゴロツキを成金に仕立て、労働環境(広くは経済)を破壊されたと思います。

そして、話がそれますが、昨今の憲法の議論が盛んです。しかしながら、現在東北の復興、デフレ状態、エネルギーインフラ(原発など)がほとんど解決されない中、如何して盛り上がっているのかが解せません。

仮に近く選挙があるにしても、その公約を今解決されていない問題を訴えることでも、かなりの票が取れることが想定されるのに、何故その争点が憲法になるのか。

勿論、今の憲法が良いということではありません。しかしながら優先順位というものがあります。

このまま行けば、さらなる経済苦による犠牲者、節電を強いられて熱中症で犠牲になる方などが予想されます。

そういう意味で、やはり今の憲法の盛り上がり、何か裏があるのではと些か感じております。

以上、変なことを申しまして、すみませんでした。
Posted by Sura at 2012年05月09日 01:22
Sura様
青砥の殿さまのお話、いかにも日本らしい、いいお話でした。
おそらくこういう話は、西洋合理主義の考え方からは出てこないでしょう。たった一文銭の為に松明買って、人を集める方が無駄=損と考えるのは、自分の利益しか考えていないわけです。しかし聡明な為政者はさらにその上を考えていた。

日本に100年を越える老舗企業が10万社も存在できたのは、一重に創業者の偉さに加え、為政者も立派な人が多かったんだと思います。江戸時代の悪代官は左翼が作ったプロパガンダだ、という話を聞いたことがあります。今の日本人は、江戸時代より劣化しているということでしょうねえ。

憲法論議が今、盛り上がっているというのを知りませんでした。先日の憲法記念日に際して、例年のものかと思っていました。憲法論議があるなしは別にしても、東北復興は急務です。野田豚政権は意図的に復興を遅らせているのではないか、と思いますが・・・しかし、これで民主党比例区の投票率の高い東北地域の有権者は目が覚めたか?これが気になります。
Posted by トラネコ at 2012年05月09日 11:42
会社の理念も、労働を悪で義務と考えるか。善で喜び、と考えるのか、で違ってくるのでしょうか?

宗教も関係してくるのでしょうし、過去の日本では悪い意味でなく働く中に生活があったと思います。

今、日本では経済が一般に悪いので仕方がないのでしょうが、労働条件や企業の考え方に違和感がありますね。

私は一生懸命働くのは賛成です。得るものも多いでしょうし、しかし余裕や安定のない生活では創造性がだめになるとおもうなあ。

Sura さまのコメントで思うのは、本来、日本では今のままではまずいので解散総選挙にならなければならないのに、目先の問題が多くて惑わされていると思いますね。
Posted by 人形焼 at 2012年05月09日 19:42
人形焼様
>会社の理念も、労働を悪で義務と考えるか。善で喜び、と考えるのか、
 で違ってくるのでしょうか?
やはり違うと思います。
キリスト教文化圏でもプロテスタントは労働の尊さは認めていますから、カトリック系とは若干考え方は違うのではないかと思います。でも日本の神話から続く労働概念とは根本的に違うでしょうね。

>過去の日本では悪い意味でなく働く中に生活があったと思います。
>・・・しかし余裕や安定のない生活では創造性がだめになるとおもうなあ。
そう思います。
日本人は働くことを生きがいとする民族ですね。しかし反面これが高じてワークホーリックな側面も否定できません。一概にどちらが優れているという問題でもありませんけどね。何事も『適度』、『中庸』が大切かと・・・。
Posted by トラネコトラネコ at 2012年05月09日 19:51
サンエーは2年くらい前の小売業営業利益率で全国ナンバーワンになっているほど優良企業です。どこに秘訣があるのか、かねひでやジャスコとの違いを知りたいと思っていました。「社長の企業理念」この違いが大きいのですね。勉強になりました。
Posted by けろたん at 2012年05月10日 08:58
確かに我が国が焼け野原からここまで立ち上がったひとつとして家族的経営・終身雇用がありますね。 最近契約・派遣社員型あるいは業績主義というのが凄く浸透していますがそんなあこぎな物でよいのか?という疑問もあります(このやり方ではある意味たくさん儲かり突出しますが没落するときは派手に崩壊します)。

作家の村上龍は著作「13歳からのハローワーク」の後半部分にて我が国のその良いところを時代遅れだとか書きまくっていました(そもそも作者自身の思想がアレなところがありその本の中でも本の荘重をする人をコラムで紹介するページにて共産党宣言の本の荘重を評価しながら「この本がまだ意味を失ってしまったわけではない!と物語っていて強烈だった」と思想誘導しているのが見え見えです)。

パナソニックの松下幸之助の文章を見ていてちょっと似た人を思い出しました。それはタミヤの現会長である「田宮俊作」であり模型を通じてもの作りに静岡県に貢献し「儲けるな、損をするな」をモットーとしています(その格言は俊作氏の父親故田宮良雄氏から次いだ社訓であり良雄氏が昭和44年頃雑誌記者の質問に答えた言葉であり「儲かる仕事には必ずリスクが伴うからそれを理解したうえで手堅く経営をしていけ」という意味だそうです ただ当時三十代の俊作氏は若いこともあり儲けるチャンスがあれば一気に儲ければ良いのに思っていたそうで、経営に深く関わるようになり社長になってからはその意味が徐々に分かってきたのだとか 伝説のプラモ屋~田宮模型を作った男たち~より)。
Posted by 無所属廃人 at 2012年05月10日 11:34
けろたん様
友人の話では、サンエーの社内教育が創業者の意思を忠実に受け継いで、徹底したお客様主義と、人材を育成する方向にあるということです。社長の理念にくわえ、社長の経営実践が今も生きているのですね。
Posted by トラネコ at 2012年05月10日 11:40
無所属廃人様
田宮模型は私も子供のころに戦車ものでお世話になりました。今や模型業界で田宮は世界的ですしね。スピルバーグの『プライベート・ライアン』に出てくるT-44ベースのティーガ―Ⅰは田宮のモデルを参考にしたといわれます。

日本の技術が世界一になったのは、作り手が『儲け根性』よりも『良いもの』を作りたいという、いわゆる『道』を究める精神があったからではないか、その結果優秀な製品ができ、市場で人気商品になったということではないかと思います。

また優秀な技術を育成するというか、追求することが日本人の文化なんだと思います。だから人材育成もおのずと、社会的な必要条件になったのだと思います。シナチョンでは儲けるという結果重視で、それが皆無です。だからあの国ではパクルことしか能がないのでしょう。
Posted by トラネコ at 2012年05月10日 11:52
いろいろと考えてるさなか、検索してここにきました。

今は、利益を重視してるのでお金は稼げるけど何かが欠落してると感じています。 この記事は、いろんな意味で共感がありましたのでメッセージを送りたく書き込みさせていたただいてます。


今の企業は日本人が本来持っていたワビサビや思いやりとさっしを悪く悪用してるように感じます。
どうして、戦争後すべてを失った日本がここまで注目される国に戻ったかを今一度みてほしいと感じます。
Posted by とわ at 2015年08月30日 21:21
とわ様
コメント有難うございます。
やはりバブル崩壊後の企業システムの変革が大きいでしょう。
とくに欧米式の成果主義が社員の使い捨て、利潤追求第一主義にかわり、それまでの家族的経営が崩壊したことが原因かと思います。ここにきて外国人労働者を大量に受け入れるなどという安倍政権の政策は日本崩壊に導きますね。もっとも安倍首相自身は本意ではないようですが・・・、
Posted by トラネコトラネコ at 2015年08月31日 02:48
株式会社サンエー・株式会社エディオン・株式会社マツモトキヨシホールディングス・B-R サーティワン アイスクリーム株式会社の各株式を保有している私自身、折田喜作氏(故人)とは短い御付き合いがありました。
温厚で優しく、誰からも信頼された経営者でした。時々、役員に叱る事がありましたが、従業員の方々には懇切丁寧に細かい面まで指導・育成に取り組まれた事を生前、御本人がおっしゃっておられました。懐かしいですね。
Posted by ガチャピン at 2016年08月03日 03:34
ガチャピン様
やはり長く続く一流企業は、常に客のニーズを第一に考え、社員も客も経営者もバランスの取れた人間関係を育成するものでしょうね。
Posted by トラネコトラネコ at 2016年08月03日 20:10
 
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