本物のティーガーⅠが登場する映画「フューリー」
2015年01月03日

昨日に引き続き、アンジーの夫が主演する映画の話題。
お断りしておくが、あくまで私の偏見に基づく感想である。
ご承知とは思うが念のため。
この映画、結構前評判がよかったせいか、
私は見てがっかりしたというのが率直な感想である。
基本的に映画を観た後の感動があまりなかった。
嫁の映画と同じく、アカデミー賞とれるほどの内容とは思わないが、
現在もまだ上映中かも知れないので詳細は述べないが、
大雑把に観た映画の印象だけのべていく・・・
この映画のストーリーは欧州大戦末期に・・・
歴戦の戦車部隊の車長ドン・コリア―軍曹(ブラッド・ピット)の戦車に、
補充兵として配属された新兵ノーマン二等兵(ローガン・ラーマン)が戦闘を通じて、
一人前の兵士に成長する姿を戦争のリアリズム通じて描いている。
映画の題名になっているフューリー(激怒)とは主人公たちが乗る戦車の名前だ。
戦車はM4シャーマンで当時5万両も生産されたアメリカの代表戦車である。
強くは無かったが、操作性と頑丈さに定評があり様々なバリエーションがあった。

B.ピット始め各俳優の演技そのものは良かったと思う。
物語の展開において、淡々と行軍と戦闘シーンが繰り返されるのだが、
リアリズムといえばそうなんだが、「物語を観る」というドラマ性では、
映像作品としては、いまいち盛り上がりがなく面白みに欠けた。
特に進軍途中で占領したドイツの町での民間人女性と、
戦時におけるつかの間の邂逅とか、戦車仲間との野卑な葛藤など、
果たして脚本に必要なシーンだったのか疑問である。
主人公たちが去った後で、ドイツ軍の砲撃で女性が死亡することで、
何か戦争の悲惨さみたいなものを表現したかったのだろうか?
今ひとつ、このシーンの設定がよくわからない。
この映画、個人的に採点すれば、70点というところか・・・

このシーンはもう少し工夫するかカットすべきだった・・・
良い点として、映画の時代考証は中々しっかりしていて文句は無かった。
最初の戦場シーンでドイツ軍の破壊されたパンターらしきシルエットがあったし、
ドン軍曹はドイツ軍の捕獲品と思われるMP44銃を携行していたり、
ドイツ軍の水陸両用車シュビムワーゲンもさりげなく配置するのは心憎い。
また近年珍しくCGではなく大量のエキストラを動員しており、
兵士も民間人も服装、装備品など時代考証が正確に生かされており、
戦場の情景設定も申し分なく、しっかり金かけている作品だと思った。
特に戦車好きの私としては、戦車の装備や想定は非常によかったと感じた。
見せ場であるボービントン博物館の実物をレストアしたティーガーⅠとの戦闘は、
戦闘開始後一気に仲間のM4シャーマン3両が破壊されるリアリティはよかった。

戦車博物館にあった本物のティーガーⅠをレストアして使用した。
当時はティーガー1両に対し、M4が5両が必要と言われていた。
二両がオトリになって他の3両はそれぞれティーガーの側面に回り込み、
ティーガーの装甲の薄い側面、後方から攻撃するやり方でないと勝てなかった。
なぜならティーガーの150ミリの正面装甲はM4の75ミリ砲では貫通できず、
逆にティーガーの88ミリ砲は射程2000メートルでM4を破壊できたからだ。
つまりM4シャーマンはティーガーには歯が立たなかったのである。
実際にM4はティーガーの敵ではなく、よほど状況が有利でない限り、
M4は正面きってのティーガーと戦闘は避けていたという。
このことも映画では正確に表現されていた。

M4の75ミリ砲ではティーガーの正面装甲は貫通できなかった。
それだけに残念だったのが・・・
1000メートル切った距離で、しかも平原で正面対峙の戦闘で、
ティーガーⅠがM4を4両とも撃破できないのは現実的に考えられないし、
ティーガーは向かってくるM4に対し、行進間射撃などありえなかった。
現用戦車はスタビライザーという砲口を目標に向け続ける安定装置があるので、
行進間射撃も可能だが、当時の戦車にはそれがないので射撃する場合は
止まってから狙いを定めてから行うことが普通であった。
ドイツの砲手は日本人と同じく職人技的な技術修練を積んでおり、
特にティーガー搭乗員は選抜されたエリートばかりでもあることから、
映画のようなきわめて至近距離の静止射撃で外すなどまずありえない。
さらに・・・
M4がティーガーの弱点の後方部に回り込む戦術は史実として正しいが、
疑問に思ったのは、ティーガーはM4が後部に近づいているのにも関らず、
撃ってくださいといわんばかりに、何故後部を敵に晒す行動を取ったのか?
これも実にありえない行動である。
こういう演出が戦車ファンとしては不満が残るのだが、
まあ、あくまで映画の演出上必要な配慮だったのだろう。
ちなみに、M4とティーガーの一騎打ちのシーンは、
ガルパン最終回の姉妹対決を思い出した。

こんな近距離に近づかれてティーガーが撃破されるのは嘘・・・
さらに最もがっかりだったのが・・・
最後のドイツ親衛隊との戦闘はもうね、アホらしくなってしまった。
昔のTVドラマ・コンバットのドイツ兵を思い出してしまったくらい、
ドイツ軍弱すぎ、素人が見てもありえない戦闘の仕方だった。
地雷で行動不能になった戦車に主人公らが篭城して待ち伏せし、
これにドイツの精鋭SS歩兵部隊約300名が攻撃をするのだが・・・
ドイツ兵はなぜか迂回せず、戦車正面の撃たれやすい方向から、
まるで日本軍の万歳突撃の玉砕みたいにバタバタやられるし、
大量にパンツァーファスト(携行用対戦車榴弾発射器)があるのに殆ど使わないし、
戦車に対しまったく無駄とも思える機関銃弾を浴びせる無意味さも・・・

クライマックスでがっかりさせられた・・・
最後の見せ場でもある戦闘シーンに、素人でもシラける戦い方は残念だ。
これ軍オタや専門家はもとより、ドイツ人がみたら怒りそうじゃないか。
これなら「プライベート・ライアン」の方が、
戦場のリアリティや、映画としてのドラマ性は優っていたな。
それと曳光弾をあそこまで表現した戦争映画は始めてではないか。
これも映画の迫力を上げる効果なのかもしれないが、
白昼のあまりにビーム化したカラフルな弾道にはくどさを感じた。
「フューリー」は本年度アカデミー受賞候補というが、
映画の物語性においても、戦闘シーンの現実感においても、
私個人的には大したことはない映画だった。
ブラット・ピットはじめ各俳優の演技はまあまあ良かったし、
せっかく金かけてあれだけの戦場を再現したのだから、
もっと脚本や戦闘シーンの工夫はあってしかるべきだと思う。
まあこの映画もブラピーの嫁の映画と何か関係あるかも知れないな。

戦場の演出では申し分ないだけにな・・・

期待していただけにがっかりだわ・・・
Posted by トラネコ at 00:00│Comments(6)
│映画
この記事へのコメント
小生もこの映画観ましたが、折角の実物可動ティーゲル戦車を起用しても
クライマックスの「歩兵300人vs不稼働戦車1台&5人」の場面で
ガッカリでした。対戦車火器まで持っている敵に、あんな戦闘できるはず
ありませんのでね。
目玉焼きの場面も無駄。
国際法違反の捕虜を惨殺する場面を描いていたのは、まあ良しとしましょう。
クライマックスの「歩兵300人vs不稼働戦車1台&5人」の場面で
ガッカリでした。対戦車火器まで持っている敵に、あんな戦闘できるはず
ありませんのでね。
目玉焼きの場面も無駄。
国際法違反の捕虜を惨殺する場面を描いていたのは、まあ良しとしましょう。
Posted by 猫宮とらお at 2015年01月03日 10:30
猫宮とらお様
「プライベートライアン」のノルマンディー上陸のシーンで、手を上げて降伏するドイツ兵を殺害したシーンがありました。近年の戦争映画では比較的正確かつ公平に、日独軍や米軍の実態を描いていますよね。この辺は評価できます。「フューリー」は脚本で失敗ですね。
「プライベートライアン」のノルマンディー上陸のシーンで、手を上げて降伏するドイツ兵を殺害したシーンがありました。近年の戦争映画では比較的正確かつ公平に、日独軍や米軍の実態を描いていますよね。この辺は評価できます。「フューリー」は脚本で失敗ですね。
Posted by トラネコ
at 2015年01月03日 10:35

映画「フューリー」の感想の執筆お疲れ様です。
自分も即見に行きましたがやっぱり腑におちない・モヤモヤした感じがしました。Youtubeで予告編動画を見たとき期待を持っただけに残念でありました(まとめサイトでも軍オタからの評価がかなり厳しいとありました)。
ある程度の人間ドラマを入れてできれば後半も戦車対戦車で見たかったのが感想であります。
でも映画で改造ではないかつて戦場を駆けた複座転輪式のティーガーⅠが動き88ミリ砲を吹いている姿を見れたのは良かったです(その時の被弾し砲塔が吹き飛ぶシャーマン戦車の描写も凄まじかった)。またフューリー号を見ていたらああ、この型は砲身強化に履帯と懸架装置改修してあるからは間違ってなければイージーエイトで戦後は陸上自衛隊にイスラエル軍も使っていたなぁと思いながら見ていました(1970年代にタミヤが1/35でそして最近リニューアルして出していた)。
これだけ丹念に作りこまれしかも過去の時代の戦車が動いて戦うという映画そうそう無いだけに残念であります・・・。
自分も即見に行きましたがやっぱり腑におちない・モヤモヤした感じがしました。Youtubeで予告編動画を見たとき期待を持っただけに残念でありました(まとめサイトでも軍オタからの評価がかなり厳しいとありました)。
ある程度の人間ドラマを入れてできれば後半も戦車対戦車で見たかったのが感想であります。
でも映画で改造ではないかつて戦場を駆けた複座転輪式のティーガーⅠが動き88ミリ砲を吹いている姿を見れたのは良かったです(その時の被弾し砲塔が吹き飛ぶシャーマン戦車の描写も凄まじかった)。またフューリー号を見ていたらああ、この型は砲身強化に履帯と懸架装置改修してあるからは間違ってなければイージーエイトで戦後は陸上自衛隊にイスラエル軍も使っていたなぁと思いながら見ていました(1970年代にタミヤが1/35でそして最近リニューアルして出していた)。
これだけ丹念に作りこまれしかも過去の時代の戦車が動いて戦うという映画そうそう無いだけに残念であります・・・。
Posted by 無所属廃人 at 2015年01月06日 20:23
無所属廃人様
やはり同じ感想をお持ちになりましたか。
本当にあれだけ金かけて情景設定は申し分ない作品だけに、脚本の拙さにはガッカリですね。仰るとおり、人間ドラマを、というか一応入れているつもりなんでしょうが、脚本が下手なんですよ。でもまあ、戦場や戦車の時代考証が良かった分は評価しましょう。
やはり同じ感想をお持ちになりましたか。
本当にあれだけ金かけて情景設定は申し分ない作品だけに、脚本の拙さにはガッカリですね。仰るとおり、人間ドラマを、というか一応入れているつもりなんでしょうが、脚本が下手なんですよ。でもまあ、戦場や戦車の時代考証が良かった分は評価しましょう。
Posted by トラネコ
at 2015年01月07日 01:15

はじめまして。マサと申します。後れ馳せながら最近フューリーを見ました。
タイガー対シャーマン戦。確かにシャーマンより武装も装甲も勝るタイガーが何故わざわざ突っ込むのだろうと思いました。
しかし、タイガーの履帯付近のアップのカットを見て車体があまり沈み混んでいないことに気づきました。もし弾薬、防弾など豊富に積んでいれば自ずと重みで沈み混むので履帯とカバー?との隙間が狭くなるのですが、結構隙間が空いたので恐らく補給もままならない状態でシャーマンと対峙したのではと思いました。
また、補給が不十分ということは、乗員の休息や食事も不十分である可能性が高いので、乗員は長時間の緊張状態による疲れや飢えから冷静な判断を欠いていたのではないかと思いました。
その映画以外で判断を欠くシーンはレマゲン鉄橋という映画で連合国側の上官が疲れから冷静な判断を欠いて安全確認ができていない街にジープで突っ込みパンツァーファウストで爆死するシーンがあります。
タイガー対シャーマン戦。確かにシャーマンより武装も装甲も勝るタイガーが何故わざわざ突っ込むのだろうと思いました。
しかし、タイガーの履帯付近のアップのカットを見て車体があまり沈み混んでいないことに気づきました。もし弾薬、防弾など豊富に積んでいれば自ずと重みで沈み混むので履帯とカバー?との隙間が狭くなるのですが、結構隙間が空いたので恐らく補給もままならない状態でシャーマンと対峙したのではと思いました。
また、補給が不十分ということは、乗員の休息や食事も不十分である可能性が高いので、乗員は長時間の緊張状態による疲れや飢えから冷静な判断を欠いていたのではないかと思いました。
その映画以外で判断を欠くシーンはレマゲン鉄橋という映画で連合国側の上官が疲れから冷静な判断を欠いて安全確認ができていない街にジープで突っ込みパンツァーファウストで爆死するシーンがあります。
Posted by マサ at 2017年06月04日 02:02
マサ様
初めまして。
中々着眼点が鋭いですね。
ご指摘の点は十分に可能性はあると思います。
しかしティーガーとシャーマンの戦闘シーンの決定的な誤謬は、当時はほぼなかった行進間射撃をしている事です。現代の戦車のようなスタビライザーがない時代には、行進間射撃の命中率は極めて低かったので、緊急性や特別な事情がない限り行進間射撃はしていなかったはずです。しかもティーガーは待ち伏せ側ですからわざわざ顔を出して、行進間射撃に躍り出る必要はないはずです。当時M-4 の75ミリ砲ではティーガーの正面装甲は貫通できませんでしたし、ティーガーがじっくり低位置で狙いを定めて、一両ずつ撃破できる有利な側だったのにも関わらずです。
同じことは、ドイツ軍の対戦車砲部隊とM-4との正面対決のシーンでも、森の中で姿を隠して狙いを定めている対戦車砲が、正面から直進するM-4に一発も当たらないなんてバカバカし過ぎです。あれも実戦を少しでも知っている人ならアホらしいでしょう。ラストシーンの武装親衛隊との戦闘はあほらしすぎてみる気もしませんね。
初めまして。
中々着眼点が鋭いですね。
ご指摘の点は十分に可能性はあると思います。
しかしティーガーとシャーマンの戦闘シーンの決定的な誤謬は、当時はほぼなかった行進間射撃をしている事です。現代の戦車のようなスタビライザーがない時代には、行進間射撃の命中率は極めて低かったので、緊急性や特別な事情がない限り行進間射撃はしていなかったはずです。しかもティーガーは待ち伏せ側ですからわざわざ顔を出して、行進間射撃に躍り出る必要はないはずです。当時M-4 の75ミリ砲ではティーガーの正面装甲は貫通できませんでしたし、ティーガーがじっくり低位置で狙いを定めて、一両ずつ撃破できる有利な側だったのにも関わらずです。
同じことは、ドイツ軍の対戦車砲部隊とM-4との正面対決のシーンでも、森の中で姿を隠して狙いを定めている対戦車砲が、正面から直進するM-4に一発も当たらないなんてバカバカし過ぎです。あれも実戦を少しでも知っている人ならアホらしいでしょう。ラストシーンの武装親衛隊との戦闘はあほらしすぎてみる気もしませんね。
Posted by トラネコ
at 2017年06月04日 02:32
